2013年9月5日木曜日

「Goldではないのに光り輝くように見えてしまうからくり」がわかれば,臨床論文を読むことはもっと楽しくなる。新刊のご案内です!


ライフサイエンス出版から新刊のご案内です!

臨床研究を正しく評価するには:Dr.ファーバーグが教える26のポイント


原著副題は“All that Glitter is not Gold(光るものすべてが金とは限らない)"

-ジョー先生,このなかから有意なp値を出してくれませんか?

-正確な時刻というのは,正しくない数個の時計の平均とは限らないのだ

-どの薬とも比べないときの方が新薬を良く見せるのは簡単だ

-どうして副作用を見逃してしまうのだろう?
-それは副作用を見つけようとしていないからさ

-しまった!治療群からイベントをあと一つだけ除外できれば有意になるのだが。

-見事な答えですね。でも質問は何だったのかな?

-最悪。我々の新薬には大した優位性はないね。
-心配いらないよ。慣れたマーケッティングの連中が大型品にしてくれるから。

随所にちりばめられている風刺漫画から,台詞を抜き出してみました。
EBMに入門したい人も,復習したい人も,楽しんでいただけると思います!
実例を示しながらやさしくわかりやすく解説されていますが,
案外あまり知られていない内容も多いと思いますので,
EBMに詳しい方にもお勧めです。

著者はあのファーバーグ兄弟,翻訳はバイオ統計学の第一人者である折笠秀樹氏。
ファーバーグ先生とは・・・

「彼は辛口の論評で有名であるが,現在でも臨床試験のデータモニタリング委員として数多くの試験に関与している(監訳者序)」

「かつてCa拮抗薬論争を巻き起こした中心人物で,1995年のAHAのディベートでは会場を埋め尽くした聴衆の前で堂々と持論を展開(略)この論争はALLHAT試験によってCa拮抗薬の安全性が確認され,終息したが,ファーバーグ氏が訴えたことは終始一貫しており,本書にもその考えが貫かれている。それは,すべての薬剤には多様な効果があること,個別の試験結果のみを信じるべきではないこと,安全性の確立していない薬剤については常に慎重であることなどがあげられる(刊行に寄せて 桑島巌氏)」

詳しくは・・・ こちら


2013年6月19日水曜日

本誌第3号 在庫入荷済みのネット書店のご案内

『CORE Journal 循環器 no.3 2013 春夏号』が,発売となりました!
是非是非,書店にてお手にとってご覧下さい!

流通の関係で,アマゾンをはじめネット書店への入荷に時間がかかっております。。
下記のネット書店は在庫入荷済みですので,お急ぎの方はこちらからご利用下さい~

紀伊國屋書店ウェブストア
丸善&ジュンク堂ネットストア
メディカルブックセンター

今年に入って,既刊号含めまとめてご購入いただく読者の方がたいへん多く,本当に本当に嬉しく思っております!これからも大切に作り上げていきますので,引き続きCOREジャーナルをよろしくお願い致します。

2013年6月4日火曜日

本誌第3号(no.3 2013 春夏号)6月17日発売予定です:マニアックな見どころ

最後の校正。今号はスタッフの戦力ダウンもあり,
遅れての刊行です。次号までにカムバックの予定です。
秋冬号は,「秋」のうちに出さねば。。
第3号,予定よりもだいぶ遅れてしまいましたが6月17日(月)に刊行のはこびとなりました!書店さんの店頭に並ぶのはもうちょっと先になりますが,お手にとってご覧いただけると嬉しいです。

以前このブログでも,第3号で取り上げるテーマをご紹介しましたが,いろいろあって,下記の内容を次号(第4号)に繰り越すこととさせていただきました。
  • CQ8 携帯型呼吸補助装置ASVは心不全に対する治療となりうるか?
  • 榊原カンファ:心房細動で脳梗塞を発症した3例から学ぶこと
楽しみにして下さっていた方がもしいらっしゃいましたら,ほんとうにごめんなさい。次号で必ず掲載しますので,今後ともCOREジャーナルをどうぞよろしくお願いいたします。

マニアックな今号の見どころ

■CQ & CORE
クリニカルクエスチョン(CQ)→疑問の定式化(PECO)→情報収集(PubMed検索)→専門医の回答(実臨床でどうするか),という段階をおさえながら,具体的な解決策を導く構成になっています。
各CQのコラムとして・・・
 ・名郷先生の「エビデンス解説」
 ・国内外の先生にいただいたコメント「Voice」
メイン回答者,エビデンス解説,Voice,こんなに頼んで内容が重なったらどうしようと思っていましたが,実際に重なることはほとんどなく。「これってスタンスとしては正反対に近いよ・・・ どうしよう・・・」と,ドキドキハラハラなこともありました。そのまま掲載させていただくことをご了解くださった執筆者の先生方に心から感謝です!
そんなところも,ちょっとマニアックな見どころです。

■From the investigators
今号ではHPS2 THRIVE試験に関わったJane M. Armitage先生にお話しを伺いました。小社インタビュアーによると,Armitage先生はとても理知的で,それでいてとてもチャーミングな方で・・・
 I had a lovely interview with Dr. Jane Armitage. She is very nice!
だそうです。文字にするとお人柄までなかなか伝えられないのですが・・・ お人柄を想像すると,文字が生き生きしてくる気がします。マニアックすぎるけど,今号の見どころ。。

■榊原カンファレンス
今号のテーマは狭心症です。お一人の患者さんの症例紹介の後,薬物でいくか,ステントでいくかのディベートが行われました。ここでの議論がこの患者さんの治療方針に影響するためか,遠慮なしの真剣・直球勝負。ちょっとだけ抜粋しますと
薬物治療よりもリスクの高い侵襲的な治療を,自分の家族が受けることを考えて下さい。行う必要があるという確信があればまだしも,そういうものがなくて,脳卒中などの合併症が発症したらやはり後悔しますよね。私もそういう状況ではステント治療はできません。どうしても行ったほうがよいという状況になってはじめて行います。まずはリスクの低いことからやっていくべきだと思います。
私は,住吉先生の「安易にステントを入れるな,内科医のメスはメディカル(薬物治療)だ」という言葉を思い浮かべながら,目の前の患者さんにどのような治療がよいかを考えています。そのうえで,この患者さんにはステント治療がよいと判断しました。理由としては,まずはこの方はアダラートCR を40mg に増量しても症状が強く,著しく生活が制限されてしまっています。器質的狭窄に伴った冠攣縮がらみの発作を薬物のみで完全に抑制することは簡単ではないと考えました。二つ目は・・・
結局,この患者さんにはステント治療が行われました。その後の経過も本誌でご紹介していますが,合併症もなく発作が治まったということです。よかった。。「自分の家族だったら」ではじまるディベートを聞いたら,とても人ごとのように思えなくなりました。「医師 対 患者」というより「人 対 人」の現実感,緊張感,厳しさ,喜び・・・のようなものを,ほんの少しですが感じることができた気がします。文句なしの,今号の見どころです。

2013年4月17日水曜日

こぼれ話★PubMed IDの桁数は何桁?

小社ベテラン編集部員から今朝こんなメールが・・・

-----------------

PubMed IDの桁数は何桁かごぞんじでしたでしょうか。

知らない?

そうでしょう。

おしえます。

1桁から8桁です。

すなわち

PMID:1 の論文も
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1
PMID:10 の論文も
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10
PMID :100の論文も
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/100

あるのです。

知ってた?それは失礼しました。

お邪魔しました。

サブグループのメタのいけないところ☆治療効果が過大評価されがち



引き続き名郷先生の面談から。以前このブログでも紹介したアヤシイメタ解析,再び登場です。

サブグループのメタのいけないところ☆治療効果が過大評価されがち

CQ9:心臓再同期療法が有効なのはQRS幅が120ミリ秒以上か,150ミリ秒以上か?
で検索したメタ解析(PMID:21815961)について伺っていたときのことです。

 これもRCTのサブグループのメタ解析ですね。

↑ええと・・・RCT参加者をQRS幅150ミリ秒以上と未満に層別化したデータを用いて,メタ解析を行っています。150ミリ秒以上の場合,全死亡+心不全による入院を42%抑制するという結果になっています(ハザード比0.58,95%信頼区間0.50-0.68)。

― サブグループ解析のメタ解析は,よい結果が出やすいですからね。

↑よい結果が出やすい!?

― サブグループ解析は,よい結果が出たものだけが報告される傾向があるんです。だから,システマティックレビューを行って公平に論文を集めメタ解析を実施しても,有効性が過大評価されているかもしれない。

↑ 出版バイアスの話と似ていますね。。最近,臨床試験実施前にClinical Trials. govなどの公の登録サイト(http://clinicaltrials.gov/ct)に登録することが要求されるようになっていると聞きました。海外有名誌が集まる医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE)は,この登録を論文掲載の条件にするという声明を発表しています(PMID: 15355883,小社刊「臨床研究と疫学研究のための国際ルール集」に翻訳を掲載しています)。

― さらに最近,一流誌に掲載される論文では,サブグループ解析が事前に設定されたもの,あるいは事前設定されたかどうかが明記されるようになりつつあります。

↑そういえば!論文を読んでいるとたまに出てくるんですが,そんな意味があったとは知りませんでした。メタ解析に含まれたRCTサブグループはどうだったのか・・・ 調べ出すときりがないですね。。

― まあ,あんまりこだわらずに,サブグループのメタ解析は少し控えめにみておく習慣をつけておけばよいと思いますよ。ざっくり,150ミリ秒以上の人のほうが効きそうだ,という感じで捉えていけばよいでしょう。

※この内容は,本誌第3号に,詳細が掲載されています

次回の更新では・・・
『早期中止試験について冷静に考えてみよう☆それほど良くもそれほど悪くもない』
について紹介する予定です!

2013年4月11日木曜日

4月12日~14日に開催される日本内科学会(in 東京国際フォーラム)の書店ブース,ぜひお立ち寄り下さい


明日,4月12日(金)から14日(日)まで,東京国際フォーラムにて第110回日本内科学会講演会が行われます。地下2階の展示ホールには巨大な書店コーナーが設置されます!その規模といったら・・・おそらく日本最大級?ではないでしょうか?内科関連の書籍が一同に集まり手にとれるこの機会,ぜひお見逃しなく!



臨床試験と実臨床のギャップについて考えよう☆実地臨床はRCTのようにいかない


引き続き名郷先生の面談から,臨床試験と実地臨床のはなしをご紹介します。

臨床試験と実臨床のギャップについて考えよう☆実地臨床はRCTのようにいかない


本誌no.4 CQ7:携帯型呼吸補助装置ASVは心不全に対する治療となりうるか?
で検索した五つの研究について伺っていたときのことです。

― 五つのうち四つは非ランダム化比較試験ですね。「同意が得られた患者」,もしくは「実施可能だった患者」にASVが実施されています。いずれもASVの有用性が示されているようですが,まだこれだけでは結論は得られないでしょう。

↑ ランダム割り付けが行われていないことによるバイアス,の話ですね?

― ところで,ランダム割り付けをしないとどのようなバイアスが生じるか,説明できますか?

↑ 両群の患者背景が均一にならず,それが結果に影響しうるということでしょうか?

― そうですね。今回のように「同意が得られた患者」には,もともと治療意欲が高く,健康への関心も高い患者さんが多くなることが予想されます。ですからよい結果がでやすい。有用性を過大に評価されてしまうのです。

↑ たしかに治療意欲や健康への関心は,両群で均一だったかどうかは,「baseline characteristic」でも確かめようがないですし。。どの程度関与したかもわからないんですね。

― そうですね。きちんとした手順を踏んだランダム化比較試験(RCT)ではそういったバイアスが除かれるわけです。ただ,RCTにはまた別の課題があります。RCTに参加するのは,基本的に治療意欲や健康への関心が高い人がほとんどです。医師の指導にきちっと従ってくれる,模範的な患者さんなわけですよ。

↑ 薬もちゃんと飲んでくれるし,サボらず通院してくれる・・・

― でも実際には,そうでない患者さんっていっぱいいるんです。さらに,実地臨床では,必ずしも臨床試験のように専門性の高い医療者ががっちりフォローアップするわけでもない。だから,RCTと実地臨床にはものすごいギャップが存在するんですね。とくに治療の安全性は,RCTで良好とされたとしても,それが実地臨床で通用するかを確認していく必要があるんだと思います。

※この内容は,本誌第4号に,詳細が掲載されています→ CQ7


次回の更新では・・・
サブグループのメタのいけないところ☆治療効果が過大評価されがち
について紹介する予定です!


2013年4月5日金曜日

効果指標による印象の違いを知っておこう☆事実は一つです

引き続き名郷先生の面談から,効果指標についての話題です。

効果指標による印象の違いを知っておこう☆事実は一つです


CQ7:浅大腿動脈に植え込むステントはDESか,BMSか?
で検索した,Zilver PTX試験[PMID:21953370]について伺っていたときのことです。

 これは良心的な論文ですね。

↑そうですか?

― パクリタキセル溶出ステント(PES)とベアメタルステント(BMS)の臨床ベネフィットを,持続的跛行や跛行の悪化,安静時疼痛などを「認めない患者」の割合で示しているでしょう。

↑ 言い換えると「イベント回避率」ですね。PES群は90.5%,BMS群は72.3%で,P=0.009と記載されています。

― そうですね。つまり,イベント発生率は9.5%と27.7%。PESがますます良さそうに見えてきませんか?

↑ たしかに,BMSを使うとイベントは3倍になるということですね。。リスク比を計算すると0.34,NNTは「5」!すごく効果があるように見えます!同じ事実なのに,効果指標によって印象はぜんぜん違ってくるんですね。そのような見方があるなんて,まったく考えに至りませんでした。。

― 私はそのような見方しかしてませんけどね(笑)。でも,このリスク比の95%信頼区間を計算すると,およそ0.14~0.87となります。信頼区間の幅が非常に広い。ですから,推定治療効果の信頼性という点では,説得力に欠けるのです。論文著者の意図はわかりませんが,それを根拠にリスク比やNNTを記載しなかったのだとしたら,好感がもてますね。

↑ 先生が最初に「良心的」とおっしゃったのはそのことでしたか。。

※この内容は,本誌第3号に掲載されています!

次回の更新では・・・
臨床試験と実臨床のギャップについて考えよう☆実地臨床はRCTのようにいかない
について紹介する予定です!

2013年4月3日水曜日

利益と害のバランスを論理的に考えよう☆考えるよりまずLHHを計算

引き続き名郷先生の面談から・・・ 利益と害のバランスの指標,LHH(likefood of being helped or harmed)の使い方をご紹介します!LHHについては以前の更新でも出てきましたが,今回は復習を兼ねて…

利益と害のバランスを論理的に考えよう☆考えるよりまずLHHを計算


本誌no.3 CQ6:脳梗塞再発予防にスタチンは有効か?LDL-C厳格管理の有用性と安全性は?
で検索した,SPARCL試験(PMID:18077795)について伺っていたときのことです。

― なるほど。脳梗塞二次予防という「利益」は,脳出血発症という「害」は少なくとも上回るといえそうですね。

↑ なぜそのように判断されたのでしょう?

 計算すると脳梗塞予防のNNTは42,脳出血発症のNNH(何人治療すると1人に有害なイベントが起こるか)は107。単純に計算すると利益は害の2.5倍くらいですね。

↑以前このブログにも登場した,LHH(likefood of being helped or harmed)ですね!たしか,NNTとNNHの比をとって,利益が害の何倍かを示す指標だから・・・ LHH=NNH(107)÷NNT(42)で,2.547・・・ ほんとだ約2.5です。

― スタチンによって脳梗塞は有意に減って,脳出血が有意に増える,というように,利益と害が明らかなときはLHHを計算する習慣をつけておくといいですよ。

↑ 先生のように瞬時に計算できればいいんですけど。でも,「2.5倍」と数字になると,頭でごちゃごちゃ考えるよりすっきりするし,ほかの研究と見比べるときも便利ですね。

― そうですね。今回は脳梗塞と脳出血の比較だから・・・ イベントの重みとしては,脳出血のほうがやや重いと捉えてもよいかも知れない。脳出血の「重み」が2.5倍だとしたら,利益と害のバランスはトントンです。でも実際には重みは2.5倍とまではいかないでしょうから,やっぱり脳梗塞二次予防という「利益」が上回るといえます。

↑ 感動するくらいすっきりします!

― そうでしょう。まずLHHを計算し,その後,じっくりとイベントの重みを考えるのがコツですよ。でも,本当にスタチンでLDL-Cを低下させる価値があるのかどうかは,さらに一歩進んだところの話です。CORE Journal本誌で,専門家がどういう回答を導くのかを楽しみにしましょう。

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この後,先生からオッズ比からNNT,NNHを計算するための方程式なども教えていただきました。見せていただいた統計の本(洋書)をめくりながら・・・,先生から一言。「勉強が好きすぎてやめられないんです」

※この内容は,本誌第3号に,詳細を掲載しています→CQ6

次回の更新では・・・
『効果指標による印象の違いを知っておこう☆事実は一つです』
について紹介する予定です!

2013年4月1日月曜日

高カリウム血症という「害」を考えてみよう☆実臨床ではもっと多い


引き続き名郷先生の面談から,前回に引き続き「害」の話題です。

高カリウム血症という「害」を考えてみよう☆実臨床ではもっと多い


CQ4:腎障害患者でのRAA系阻害薬の併用療法はどこまで有効か?
で検索した,5件の論文について伺っていたときのことです。

 高カリウム血症がこれだけ多いと,怖いですね。

↑臨床試験で良く出てくる有害事象ですね。血中カリウム値が上がるとなぜいけないのでしょうか。

― 不整脈の原因になって,突然死を起こす可能性があるからです。でも私が「怖い」と言っているのはそこではありません。ACE阻害薬/ARBに,スピロノラクトンを追加投与したメタ解析(PMID:19588415)でいうと,高カリウム血症のリスク比は3.06,95%信頼区間は1.26~7.41です。最大で高カリウム血症のリスクが7.41倍になるかもしれない。でも,実地臨床での高カリウム血症はもっと多いと考えた方がいいんです

↑ ええと,以前伺ったお話では,たしか害のリスクは95%信頼区間の悲観的な数字を考慮する,ということでしたよね?今回,先生がさらに悲観的にとられているのはなぜでしょう。

― これは実際に起こったことなのですが,1999年にスピロノラクトンが重症心不全の死亡リスクを30%抑制するという劇的な結果が報告されたのですね(PMID:10471456)。この結果を受けて,スピロノラクトンは心不全治療薬としてまたたく間に実地診療に広まりました。ところが2003年に報告された観察研究で,スピロノラクトンが投与された患者の24%に高カリウム血症,25%に腎不全,3%に一時ペーシングが必要,といった有害事象が生じていたことが報告されたのです(PMID:12535810)。

↑ 思いがけないほど高い頻度の有害事象だったのですね。。臨床試験の段階でなぜ明らかにされなかったのでしょうか。

臨床試験では血清カリウム値を頻回にチェックしますが,日常臨床ではそうそうチェックしていられないですから。症状の目立った変化がなければ「Do」でいっちゃうんですね。それで気がついたら高カリウム血症の症状が出てしまった,というケースはいくらでもあるのです。

↑ 先生が「怖い」とおっしゃったのには,実地臨床では高カリウム血症を未然に防ぐことができにくい,という理由があったのですね。

※この内容は,本誌第3号に,詳細が掲載されています!ぜひご覧ください

次回の更新では・・・
利益と害のバランスを論理的に考えよう☆考えるよりまずLHHを計算
について紹介する予定です!

2013年3月29日金曜日

ひとりごと:「翻訳」機能

不定期で気まぐれに,かろうじて続けているこのブログ,ご覧いただいている皆様ほんとうにありがとうございます。このブログ,ものは試しと「翻訳」機能をつけているんですが・・・ 翻訳のひどいこと!

でも,なぜだかよくわからないのですが,北米からのアクセスが思いがけず多いのです。ひょっとして翻訳を読んで下さっているのか?

ちょっと楽しくなって他の言語の翻訳も試してみました!
イディッシュ語,ウルドゥ語あたりは,模様のようです。
カンナダ語,グルジア語はかわいい!でも字の下手な人が書いたらどうなんだろう。
個人的にはマケドニア語の文字の形が好みです。



糖尿病予備軍でインスリンが効かない理由を考えてみよう☆有用性が害に相殺される


引き続き名郷先生の面談から。論文の読み方のポイント,まだまだ続きます!

糖尿病予備軍でインスリンが効かない理由を考えてみよう☆有用性が害に相殺される


CQ3:インスリンは動脈硬化を促進させるか?
で検索した,ORIGIN試験[PMID:22686416]について伺っていたときのことです。

 インスリンは,やっぱり何かしてるんでしょう。

↑???

― だから,インスリンは何かいけないことをしているんだと思います。動脈硬化なのか癌なのかわからないけど。

↑ ええと,ORIGIN試験は糖尿病予備群または初期の2型糖尿病を対象に,インスリンと標準治療を比較した試験で,一次エンドポイントや死亡率のハザード比はほぼ1,有意差もついていません!それなのに・・・(差別だ・・・)

― うーん,説明するのは難しいんだけど。インスリンというのは,糖尿病に非常に良く効く薬ですね。でも,リスクの低い人には有効性が示せなかった。これがどういうことかわかりますか?

↑ リスクの低い人には効きにくいからじゃないでしょうか。

― そうじゃないんです。高リスクの人,たとえば何もしなければイベントを10%起こすとします。薬剤でそれが5%に減ったら,相対リスクは0.5ですね。低リスクの人では1%から0.5%になったとしましょう。相対リスクはやっぱり0.5です。

↑ あ,そのお話しは,以前に伺った「相対リスクは,重症度にかかわらずある程度一貫する」というやつですね!

― そうそう。でもインスリンはそうじゃなかった。これは,有用性を相殺してしまう潜在的な「害」があると考えられるんです。治療による害は重症度にかかわらずある程度は一定の割合で生じます。たとえば,0.5%を1%に増やしてしまう害があったとしたら,低リスクの人でみられた有効性は相殺されてしまうでしょう。でも,高リスクの人の場合はあんまり影響ないですよね。

↑ たしかに理屈はそうですけど。

― 低リスク患者を対象にすると有用性が害で相殺されてしまうことは,結構あるんです。今回のケースで,その害が動脈硬化なのだとしたら,「有用性」が目減りしても不思議ではありませんよね

↑ そうなのですね。高リスクの人では有用性に隠れていた害が,低リスクの人では現れる。なるほど,わかってきました。

※この内容は,2013年6月刊行予定の本誌第3号に,詳細を掲載する予定です

次回の更新では・・・
高カリウム血症という「害」について考えてみよう☆実臨床ではもっと多い
について紹介する予定です!

2013年3月28日木曜日

PROBE試験について考えてみよう☆アウトカム次第では捨てたものじゃない

引き続き名郷先生の面談から,論文の読み方のポイントをご紹介します!

PROBE試験について真剣に考えてみよう☆アウトカム次第では捨てたものじゃない


CQ2:オメガ3系脂肪酸は心血管病予防に有効か?で検索した,JELIS試験[PMID:17398308]について伺っていたときのことです。

 JELIS試験は,惜しいんですよね。

↑JELIS試験は2万人弱を登録した大規模試験で,EPAが一次エンドポイントを19%有意に抑制するという,良い結果が出ているようなのですが・・・ どこが「惜しい」のでしょう?

― 一次エンドポイントをよくみてみましょう。心突然死+致死性/非致死性心筋梗塞+・・・ ここまではいいとして,さらに狭心症+血管形成術(ステント留置,冠動脈バイパス術)が加わっています。これがJELIS試験の科学的な信頼性を損ねてしまう要因なのです。

↑ でも,ランダム化比較試験で設定される複合エンドポイントではよく見かけるイベントだと思うのですが。

― ランダム化であるかどうかはここでは問題ではありません。問題は,症状を訴える患者,イベント発生を判断する医師が盲検化されていたかどうか。JELIS試験は二重盲検試験ではなく,PROBE法とよばれる,前向き(Prospective),無作為(Randomized),オープン(Open),エンドポイントブラインド(Blinded-Endopoint)で行われた臨床試験です。

↑ 二重盲検ではなくオープン試験・・・ それがエンドポイントの内容とどう絡んでくるのでしょう。

― 狭心症や血管形成術の必要性といったものは,患者と医師の主観が入ってくるでしょう。非投与群のあなたはちょっと心配だから血管形成術しておきましょう,あるいは,胸が苦しくなったりすることはないですかと聞いてみたり,ということが起こりうるのです。だから,試験薬の有効性を過大評価する結果が導かれやすい。
でも二重盲検であれば,医師も患者も割り付けを知らないわけですから,エンドポイントの判定に影響しません。こうしてバイアスをそぎ落としていくことで,「信頼に値するデータ」が生み出されていくのです。

↑ PROBE法は,日本で実施される臨床試験の多くに取り入られているようなのですが,PROBE法の試験は信頼できないということなのでしょうか。

― PROBE法だから駄目,ということはありません。死亡や心筋梗塞のように,イベント発生のジャッジが明白なエンドポイントで検討されていれば,かなり使えるエビデンスだといえるでしょう。
臨床試験を行うには,現実にはさまざまな制約があります。また,バイアスの可能性を極限までそぎ落とした臨床試験を行ったとしても,それを実地臨床で再現することは無理な場合も多い。よりバイアスの少ない研究がほかに存在しないのなら,バイアスの影響を考慮しながら臨床に応用していく,といった「臨床医の判断」が必要になってくるのだと思います。

この内容は本誌第3号に詳しく掲載されています! ぜひご覧ください

次回の更新では・・・
糖尿病予備軍でインスリンが効かない理由を考えてみよう☆有用性が害に相殺される
について紹介する予定です!

2013年3月26日火曜日

コスト効果について真剣に考えてみよう☆1人が1年長く元気に過ごすために2400万円!?


「CORE Journal 循環器」では,10件のCQについて文献検索を行い,検索された論文のエビデンステーブル(文献概要)を掲載しています。先週,本誌第3号に掲載するエビデンステーブルの内容確認を兼ね,武蔵国分寺公園クリニックの名郷直樹先生にお話しを伺ってきました。

「きょう話した内容は,論文の読み取り方のトレーニングとして相当勉強になると思いますよ」と名郷先生。詳しくは,本誌の「エビデンス解説」というミニコーナーで紹介しますので,ご覧いただけると嬉しいです。このブログでも一部を紹介していきたいと思います!

コスト効果について真剣に考えてみよう☆1人が1年長く元気に過ごすために2400万円!?


CQ:低リスク患者に対するスタチン治療は必要か?
で検索した,5件の論文について伺っていたときのことです。

 リスクが低い人にもスタチンを投与していたら,社会保険制度は崩壊しますね

↑えっ…でも日本のMEGA試験(PMID:17011942)などでスタチンは冠動脈心疾患を有意に低下させることが示されています。

― たしかに,何もしなければ起こるイベントが年間0.5%のところを,スタチンで0.33%まで減らせます。でも,オランダのコスト効果の検討によると(PMID:21450800),10年で5%にイベントが発生すると推定される低リスク層では,45歳男性1人が1年長く元気で過ごすためにはスタチンに2400万円を払い,75歳男性ではスタチンに520万円を払う必要があると試算されています。

↑…2400万…。年収どころの騒ぎじゃありませんね。個人単位では,払えば絶対にイベントを防げるわけでもないし。

― 75歳男性の520万円も,深刻な問題ですよ。75歳は就労人口ではありませんから,保険料はかかりませんし医療費は1割もしくは3割負担のみ,ほとんどが「持ち出し」なんですね。就労人口はますます減っていきますから,まず支えきれない。年金もあるし。

↑なんだか世知辛い話ですが,コスト効果も医療の大事な要素なんですね。薬価にもよるのでしょうけれど・・・。

― その通りです。薬価が低く,安全性が認められている場合は,たとえ得られる効果は小さくても,投与することの妥当性は増すわけですね。すべての治療にいえるのは,有用性と害,コストの三つをセットで考えなければいけない,ということです。

↑名郷先生がいつもおっしゃっていることですね。なんだかようやく理解できた気がします。

※この内容は,2013年6月刊行予定の本誌第3号に,詳細を掲載する予定です

次回の更新では・・・
『PROBE試験について考えてみよう☆アウトカム次第では捨てたものじゃない』
についての紹介する予定です!

2013年3月25日月曜日

循環器領域でいま話題のテーマ10


「CORE Journal 循環器」は,お陰様で第1号(2012年初夏号),第2号(同年秋冬号)が発刊され,読者の皆様に励まされながら,第3号の制作に入りました!第3号で取り上げる10件のCQをご紹介します。

今回もかなりの強者です。専門家はいったいどのような「回答」を導くのか・・・ 是非ご期待下さい!第3号は,榊原カンファレンスも掲載の予定です。

第3号のCQ&CORE
  • CQ1 低リスク患者に対するスタチン治療は必要か?
  • CQ2 オメガ3系脂肪酸は心血管病予防に有効か?
  • CQ3 インスリンは動脈硬化を促進させるか?
  • CQ4 腎障害患者でのRAA系阻害薬の併用療法はどこまで有効か?
  • CQ5 β遮断薬は,すべてのST上昇型急性心筋梗塞患者に投与すべきか?
  • CQ6 脳梗塞患者に対するLDL-Cの厳格管理の有効性と安全性は?
  • CQ7 浅大腿動脈に植え込むステントはDESか,BMSか?
  • CQ8 携帯型呼吸補助装置ASVは心不全に対する治療となりうるか?
  • CQ9 心不全患者では太っているほうが予後良好か?
  • CQ10 心臓再同期療法が有効なのはQRS幅が120ミリ秒以上か,それとも150ミリ秒以上か?
第3号の榊原カンファレンス
  1. 症例1:狭心症(ステントは必要か?不要か?のディベートあり)
  2. 心房細動で脳梗塞を発症した3例から学ぶこと
  • 緊急電気的除細動後に脳梗塞を発症した1例
  • アミオダロン併用後に脳梗塞を発症した1例
  • ダビガトラン→ワルファリン変更後に脳梗塞を発症した1例

10件のCQ&COREは,下記の要素で構成されています。
【1】クリニカルクエスチョン(CQ)
【2】疑問の整形(PECO)
【3】文献検索
【4】CQへの回答&解説

【2】,【3】は本誌編集委員のお一人である名郷直樹先生のご協力のもと,編集部が主体となって行います。実際に試行錯誤した痕跡が残っていますので,検索にご興味のある方,是非チャレンジしてみて下さい!このブログでも,検索の方法をご紹介しております。
【4】では,各領域のエキスパートが,患者の特性や医療環境を加味しながら,エビデンスを実臨床に有機的に結びつけ,結論を導きます。思考過程をまとめたチャートは,「とても参考になる」と好評です!

★おわび
事情により,下記の内容を次号(第4号)に繰り越すこととさせていただきました。
  • CQ8 携帯型呼吸補助装置ASVは心不全に対する治療となりうるか?
  • 榊原カンファ:心房細動で脳梗塞を発症した3例から学ぶこと
楽しみにして下さっていた方がもしいらっしゃいましたら,心よりお詫び申し上げます。次号で必ず掲載しますので,今後ともCOREジャーナルをどうぞよろしくお願いいたします。