2013年3月29日金曜日

ひとりごと:「翻訳」機能

不定期で気まぐれに,かろうじて続けているこのブログ,ご覧いただいている皆様ほんとうにありがとうございます。このブログ,ものは試しと「翻訳」機能をつけているんですが・・・ 翻訳のひどいこと!

でも,なぜだかよくわからないのですが,北米からのアクセスが思いがけず多いのです。ひょっとして翻訳を読んで下さっているのか?

ちょっと楽しくなって他の言語の翻訳も試してみました!
イディッシュ語,ウルドゥ語あたりは,模様のようです。
カンナダ語,グルジア語はかわいい!でも字の下手な人が書いたらどうなんだろう。
個人的にはマケドニア語の文字の形が好みです。



糖尿病予備軍でインスリンが効かない理由を考えてみよう☆有用性が害に相殺される


引き続き名郷先生の面談から。論文の読み方のポイント,まだまだ続きます!

糖尿病予備軍でインスリンが効かない理由を考えてみよう☆有用性が害に相殺される


CQ3:インスリンは動脈硬化を促進させるか?
で検索した,ORIGIN試験[PMID:22686416]について伺っていたときのことです。

 インスリンは,やっぱり何かしてるんでしょう。

↑???

― だから,インスリンは何かいけないことをしているんだと思います。動脈硬化なのか癌なのかわからないけど。

↑ ええと,ORIGIN試験は糖尿病予備群または初期の2型糖尿病を対象に,インスリンと標準治療を比較した試験で,一次エンドポイントや死亡率のハザード比はほぼ1,有意差もついていません!それなのに・・・(差別だ・・・)

― うーん,説明するのは難しいんだけど。インスリンというのは,糖尿病に非常に良く効く薬ですね。でも,リスクの低い人には有効性が示せなかった。これがどういうことかわかりますか?

↑ リスクの低い人には効きにくいからじゃないでしょうか。

― そうじゃないんです。高リスクの人,たとえば何もしなければイベントを10%起こすとします。薬剤でそれが5%に減ったら,相対リスクは0.5ですね。低リスクの人では1%から0.5%になったとしましょう。相対リスクはやっぱり0.5です。

↑ あ,そのお話しは,以前に伺った「相対リスクは,重症度にかかわらずある程度一貫する」というやつですね!

― そうそう。でもインスリンはそうじゃなかった。これは,有用性を相殺してしまう潜在的な「害」があると考えられるんです。治療による害は重症度にかかわらずある程度は一定の割合で生じます。たとえば,0.5%を1%に増やしてしまう害があったとしたら,低リスクの人でみられた有効性は相殺されてしまうでしょう。でも,高リスクの人の場合はあんまり影響ないですよね。

↑ たしかに理屈はそうですけど。

― 低リスク患者を対象にすると有用性が害で相殺されてしまうことは,結構あるんです。今回のケースで,その害が動脈硬化なのだとしたら,「有用性」が目減りしても不思議ではありませんよね

↑ そうなのですね。高リスクの人では有用性に隠れていた害が,低リスクの人では現れる。なるほど,わかってきました。

※この内容は,2013年6月刊行予定の本誌第3号に,詳細を掲載する予定です

次回の更新では・・・
高カリウム血症という「害」について考えてみよう☆実臨床ではもっと多い
について紹介する予定です!

2013年3月28日木曜日

PROBE試験について考えてみよう☆アウトカム次第では捨てたものじゃない

引き続き名郷先生の面談から,論文の読み方のポイントをご紹介します!

PROBE試験について真剣に考えてみよう☆アウトカム次第では捨てたものじゃない


CQ2:オメガ3系脂肪酸は心血管病予防に有効か?で検索した,JELIS試験[PMID:17398308]について伺っていたときのことです。

 JELIS試験は,惜しいんですよね。

↑JELIS試験は2万人弱を登録した大規模試験で,EPAが一次エンドポイントを19%有意に抑制するという,良い結果が出ているようなのですが・・・ どこが「惜しい」のでしょう?

― 一次エンドポイントをよくみてみましょう。心突然死+致死性/非致死性心筋梗塞+・・・ ここまではいいとして,さらに狭心症+血管形成術(ステント留置,冠動脈バイパス術)が加わっています。これがJELIS試験の科学的な信頼性を損ねてしまう要因なのです。

↑ でも,ランダム化比較試験で設定される複合エンドポイントではよく見かけるイベントだと思うのですが。

― ランダム化であるかどうかはここでは問題ではありません。問題は,症状を訴える患者,イベント発生を判断する医師が盲検化されていたかどうか。JELIS試験は二重盲検試験ではなく,PROBE法とよばれる,前向き(Prospective),無作為(Randomized),オープン(Open),エンドポイントブラインド(Blinded-Endopoint)で行われた臨床試験です。

↑ 二重盲検ではなくオープン試験・・・ それがエンドポイントの内容とどう絡んでくるのでしょう。

― 狭心症や血管形成術の必要性といったものは,患者と医師の主観が入ってくるでしょう。非投与群のあなたはちょっと心配だから血管形成術しておきましょう,あるいは,胸が苦しくなったりすることはないですかと聞いてみたり,ということが起こりうるのです。だから,試験薬の有効性を過大評価する結果が導かれやすい。
でも二重盲検であれば,医師も患者も割り付けを知らないわけですから,エンドポイントの判定に影響しません。こうしてバイアスをそぎ落としていくことで,「信頼に値するデータ」が生み出されていくのです。

↑ PROBE法は,日本で実施される臨床試験の多くに取り入られているようなのですが,PROBE法の試験は信頼できないということなのでしょうか。

― PROBE法だから駄目,ということはありません。死亡や心筋梗塞のように,イベント発生のジャッジが明白なエンドポイントで検討されていれば,かなり使えるエビデンスだといえるでしょう。
臨床試験を行うには,現実にはさまざまな制約があります。また,バイアスの可能性を極限までそぎ落とした臨床試験を行ったとしても,それを実地臨床で再現することは無理な場合も多い。よりバイアスの少ない研究がほかに存在しないのなら,バイアスの影響を考慮しながら臨床に応用していく,といった「臨床医の判断」が必要になってくるのだと思います。

この内容は本誌第3号に詳しく掲載されています! ぜひご覧ください

次回の更新では・・・
糖尿病予備軍でインスリンが効かない理由を考えてみよう☆有用性が害に相殺される
について紹介する予定です!

2013年3月26日火曜日

コスト効果について真剣に考えてみよう☆1人が1年長く元気に過ごすために2400万円!?


「CORE Journal 循環器」では,10件のCQについて文献検索を行い,検索された論文のエビデンステーブル(文献概要)を掲載しています。先週,本誌第3号に掲載するエビデンステーブルの内容確認を兼ね,武蔵国分寺公園クリニックの名郷直樹先生にお話しを伺ってきました。

「きょう話した内容は,論文の読み取り方のトレーニングとして相当勉強になると思いますよ」と名郷先生。詳しくは,本誌の「エビデンス解説」というミニコーナーで紹介しますので,ご覧いただけると嬉しいです。このブログでも一部を紹介していきたいと思います!

コスト効果について真剣に考えてみよう☆1人が1年長く元気に過ごすために2400万円!?


CQ:低リスク患者に対するスタチン治療は必要か?
で検索した,5件の論文について伺っていたときのことです。

 リスクが低い人にもスタチンを投与していたら,社会保険制度は崩壊しますね

↑えっ…でも日本のMEGA試験(PMID:17011942)などでスタチンは冠動脈心疾患を有意に低下させることが示されています。

― たしかに,何もしなければ起こるイベントが年間0.5%のところを,スタチンで0.33%まで減らせます。でも,オランダのコスト効果の検討によると(PMID:21450800),10年で5%にイベントが発生すると推定される低リスク層では,45歳男性1人が1年長く元気で過ごすためにはスタチンに2400万円を払い,75歳男性ではスタチンに520万円を払う必要があると試算されています。

↑…2400万…。年収どころの騒ぎじゃありませんね。個人単位では,払えば絶対にイベントを防げるわけでもないし。

― 75歳男性の520万円も,深刻な問題ですよ。75歳は就労人口ではありませんから,保険料はかかりませんし医療費は1割もしくは3割負担のみ,ほとんどが「持ち出し」なんですね。就労人口はますます減っていきますから,まず支えきれない。年金もあるし。

↑なんだか世知辛い話ですが,コスト効果も医療の大事な要素なんですね。薬価にもよるのでしょうけれど・・・。

― その通りです。薬価が低く,安全性が認められている場合は,たとえ得られる効果は小さくても,投与することの妥当性は増すわけですね。すべての治療にいえるのは,有用性と害,コストの三つをセットで考えなければいけない,ということです。

↑名郷先生がいつもおっしゃっていることですね。なんだかようやく理解できた気がします。

※この内容は,2013年6月刊行予定の本誌第3号に,詳細を掲載する予定です

次回の更新では・・・
『PROBE試験について考えてみよう☆アウトカム次第では捨てたものじゃない』
についての紹介する予定です!

2013年3月25日月曜日

循環器領域でいま話題のテーマ10


「CORE Journal 循環器」は,お陰様で第1号(2012年初夏号),第2号(同年秋冬号)が発刊され,読者の皆様に励まされながら,第3号の制作に入りました!第3号で取り上げる10件のCQをご紹介します。

今回もかなりの強者です。専門家はいったいどのような「回答」を導くのか・・・ 是非ご期待下さい!第3号は,榊原カンファレンスも掲載の予定です。

第3号のCQ&CORE
  • CQ1 低リスク患者に対するスタチン治療は必要か?
  • CQ2 オメガ3系脂肪酸は心血管病予防に有効か?
  • CQ3 インスリンは動脈硬化を促進させるか?
  • CQ4 腎障害患者でのRAA系阻害薬の併用療法はどこまで有効か?
  • CQ5 β遮断薬は,すべてのST上昇型急性心筋梗塞患者に投与すべきか?
  • CQ6 脳梗塞患者に対するLDL-Cの厳格管理の有効性と安全性は?
  • CQ7 浅大腿動脈に植え込むステントはDESか,BMSか?
  • CQ8 携帯型呼吸補助装置ASVは心不全に対する治療となりうるか?
  • CQ9 心不全患者では太っているほうが予後良好か?
  • CQ10 心臓再同期療法が有効なのはQRS幅が120ミリ秒以上か,それとも150ミリ秒以上か?
第3号の榊原カンファレンス
  1. 症例1:狭心症(ステントは必要か?不要か?のディベートあり)
  2. 心房細動で脳梗塞を発症した3例から学ぶこと
  • 緊急電気的除細動後に脳梗塞を発症した1例
  • アミオダロン併用後に脳梗塞を発症した1例
  • ダビガトラン→ワルファリン変更後に脳梗塞を発症した1例

10件のCQ&COREは,下記の要素で構成されています。
【1】クリニカルクエスチョン(CQ)
【2】疑問の整形(PECO)
【3】文献検索
【4】CQへの回答&解説

【2】,【3】は本誌編集委員のお一人である名郷直樹先生のご協力のもと,編集部が主体となって行います。実際に試行錯誤した痕跡が残っていますので,検索にご興味のある方,是非チャレンジしてみて下さい!このブログでも,検索の方法をご紹介しております。
【4】では,各領域のエキスパートが,患者の特性や医療環境を加味しながら,エビデンスを実臨床に有機的に結びつけ,結論を導きます。思考過程をまとめたチャートは,「とても参考になる」と好評です!

★おわび
事情により,下記の内容を次号(第4号)に繰り越すこととさせていただきました。
  • CQ8 携帯型呼吸補助装置ASVは心不全に対する治療となりうるか?
  • 榊原カンファ:心房細動で脳梗塞を発症した3例から学ぶこと
楽しみにして下さっていた方がもしいらっしゃいましたら,心よりお詫び申し上げます。次号で必ず掲載しますので,今後ともCOREジャーナルをどうぞよろしくお願いいたします。