今回は,治療介入による副作用の話題です。最近は,抗血栓療法の新しい話題が増え,ベネフィットがリスクを上回れば治療は正当化されると言われることが増えてきました。「出血は増えるが,心血管イベントは有意に抑制された」といった研究をみかけると,私たちは,「だから何?いいってこと?ダメってこと?」と,ここで完全に思考停止に陥り,「専門医の先生がいいって言ってたし」で済ませる,という何とも情けないことを繰り返していました。
クリアに判断できる秘訣なんてものはおそらく存在しないことは,わかっています。でも,もうちょっと読めるようになれないかな・・・と,名郷先生に聞いてみました。
有効性は疑いの目で厳しく吟味し,副作用は不確かでも考慮する
CORE Journal 循環器 no2 (2012年秋冬号)で取りあげる,CQ6:心房細動合併の冠動脈疾患に対して,抗血小板療法に抗凝固療法を追加すべきか?
で検索した論文について伺っていたときのことです。
-有効性は疑いの目で厳しく吟味し,副作用は不確かでも考慮するのが,臨床的立場だと思うんですよ
↑名郷先生が常日頃おっしゃっていることですよね・・・。有効性に対しては,有意差があるか,デザインはどうか,などなど色々な吟味のポイントがあると思うのですが,副作用のデータのみかたってあるのでしょうか。
-ケースバイケースで説明は難しいですけど,一つ単純にいえるのは,95%信頼区間の悲観的なほうの数字をみることです。
↑経口抗凝固薬長期服用のステント留置例に,抗凝固薬+抗血小板薬2剤(3剤併用群)と抗血小板薬2剤(2剤併用群)を比較した研究のメタ解析では,大出血のオッズ比が2.12,その95%信頼区間が1.05-4.29になっています。先生がおっしゃっているのは,4.29のことですね。
-そう。大出血が4.29倍かもしれない。
↑でも,オッズ比の数値は2.12ですし,真実は4.29倍よりも2.12倍に近いのではないでしょうか。
-95%信頼区間は,95%の確率で,この幅のなかに真実が存在することを示すものであって,真ん中ほど真実に近いということではないのです。この区間ならどこに真実があってもおかしくない。だったら,大出血という危険な副作用は,4.29倍と思っておいたほうがよいと思いませんか?
↑私が患者だったらきっと,4.29倍という最悪の可能性が気になると思います。
-患者さんの価値観もあるでしょうけれど,少なくとも臨床医は,副作用に対しては最悪の可能性を考慮したほうがいい。
↑そう考えると,先生,大変です。脳梗塞のオッズ比は0.38,その95%信頼区間は0.12-1.22です。有効性はあるともないとも言えないのに大出血は4.29倍かもしれない。
-こういった場合は,オッズ比などの効果指標だけではなく,実際におきたイベント発生率を確認してみましょう。
↑ええと,脳梗塞発生率は3剤併用群0.8%,2剤併用群3.3%です。大出血発生率はそれぞれ4.1%,1.9%。
-2剤併用ではなく3剤併用にしたら,脳梗塞は100人中2.5人減って,大出血は2.2人増える。そういう見方もできますよね。
名郷先生は,単独の臨床試験データから「どちらの治療を選ぶべき」というお話は,あまりなさいません。名郷先生との面談後はいつも,Gordon H. Guyatt先生へインタビューしたときの,「エビデンスそのものは,医師が何をすべきかという臨床的判断を与えてはくれません」というの言葉を思い出してしまいます(詳しくはGuyatt先生へのインタビュー記事)。
次回も,「何を信じて何を疑うシリーズ」が続きます!これまでの更新内容については,ブログのもくじをご覧下さい。